最終更新日:2021年7月20日
何らかの相続手続きを行う場合、必ずと言っていいほど、手続先から戸籍の提出を求められます。
そもそも相続手続きにおいて、なぜ戸籍が必要になるのかというと、簡単に言ってしまえば「相続人を確定させるため」です。
戸籍には被相続人と相続人との続柄(関係性)が確認できる情報が記載されていますので、他者(手続先など)に対して相続関係を証明できる公的な書類としての役割を持ちます。
相続手続きの第一歩は戸籍を集めるところから始まりますが、戸籍の収集(相続人調査)は大変重要な作業であり、ここで間違えてしまうと遺産分割協議のやり直しなど、後々かなり面倒なことになりますので注意が必要です。
戸籍収集の難易度は、被相続人の相続関係・経歴・年齢などによってかなり変わってきます。一般の方でも、ご自身で相続手続きに挑戦される方は沢山いらっしゃいますが、簡単に集められたという方もいれば、途中で挫折してしまい、当事務所にご依頼される方も多数いらっしゃいます。
戸籍を集めるのが面倒・大変になる理由は主に以下のことが要因になります。
まず戸籍を集めるうえで大変になる理由の1つが、戸籍は本籍地の市役所・区役所・町村役場でしか発行してもらえないということです(※現在戸籍の取得においては全国のコンビニで取得できるサービスを行っている市区町村があります)。
どういうことかというと、たとえば山形市が本籍地であれば「山形市役所」でしか取得できません。つまり、戸籍を辿っていくうえで、被相続人が結婚や離婚、引っ越しなどで過去に本籍地を変えている場合は、その本籍をおいていた全ての役所から戸籍を発行してもらわなければならないということになります。
また、「役所」でしか取得できませんので、郵送で取り寄せしないのであれば、平日に取りに行くしかありません。
もし亡くなられた方が過去に本籍地を他の市区町村(都道府県)に移していたとしても、近隣であれば車や電車などで取りに行くことも可能だとは思います(もちろん平日に行けることが条件です)が、あまりにも遠く離れている場合には、さすがにそれだけのために新幹線や飛行機に乗って取得しに行くのは現実的ではありません。
そこで、「郵送で戸籍等を請求する」という方法になりますが、郵送で請求するには以下の書類等の準備が必要になり、これが意外と厄介で面倒なのです。
これが最も大変なことかもしれませんが、相続手続きに戸籍が必要な理由は前記したとおり第三者に「相続関係を証明するため(相続人の確定)」ですので、そのために戸籍を正確に読み解く知識が必要になることはもちろん、法律上誰が法定相続人になるのか、そしてそれを証明するために誰の戸籍をどのように(どこからどこまで)集めればよいのかを正確に知ることが必要になります。
被相続人の方が「生まれてから亡くなるまで本籍を異動させたことがなく」、相続人になる方が「被相続人の配偶者」と「その子供だけ」などの場合は比較的簡単に集めることができると思いますが、被相続人の親や兄弟姉妹が相続人になる場合や、孫や甥・姪が相続人になる代襲相続などが発生している場合、数次相続が発生している場合には集める戸籍の範囲が広がりますので苦労することが多々あります。
また、古い戸籍を辿っていくうえで「手書きの文字が読みづらい」「戸籍の様式によってルールが違う」などが戸籍を読み解くうえで更に苦労する原因となります。
上記❸で説明したとおり、戸籍を集めるうえでそもそも相続人が誰になるのかを知らなければ、誰の戸籍をどのように集めればよいのか分かるはずがありませんので、まずは法律上誰が相続人(法定相続人)になるのかを正確に覚えましょう。相続人となる方は以下になります。
まず、亡くなられた方の配偶者(妻または夫)は常に相続人となります。この場合の配偶者は法律婚をしている必要がありますので、婚姻届を提出していない夫婦(内縁関係)や離婚した元夫や元妻に相続権はありません。次に、以下の順位で相続人となります。
第一順位
第一順位の相続人は子(嫡出子、非嫡出子、養子、胎児)とその代襲相続人(孫・ひ孫など)になります。孫が相続人になるのは、子が相続開始以前に死亡しているとき、または相続欠格や相続廃除によって相続権を失ったときに限られます。これを「代襲相続」といい、代襲相続により相続人になった者を「代襲相続人」といいます。ひ孫が相続人となるときも同様です。
なお、養子の代襲相続については、養子の子がいつ生まれたかで異なりますので注意してください。例外はありますが、基本的に養子縁組をする前に生まれた子であれば代襲しませんが、養子縁組をした後に生まれた子であれば代襲することになります。
第二順位
第一順位の者がいないときは第二順位の直系尊属(父母・祖父母など)が相続人となります。この直系尊属の者の中に親等が異なる者がいる場合には親等の近い者が優先します。
したがって、父母の一方が存命のときは、祖父母が相続人となることはありません。なお、「直系」とされていますので、配偶者の父母・祖父母などは含まれません。
第三順位
第一順位の者も第二順位の者もいないときは第三順位の兄弟姉妹とその代襲相続人(甥・姪)が相続人となります。代襲相続の考え方は上記の第一順位の子の代襲相続の場合とほぼ同じですが、代襲が認められるのは甥・姪までとなりますので、甥・姪の子が代襲相続人となることはありません。
相続放棄と代襲相続については混乱しやすい部分があるので注意する必要があります。
まず押さえておきたい一つ目のポイントとして、相続放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされますので、代襲相続は生じません。
二つ目のポイントとして、上記の「相続順位」を見てもらうとわかりますが、代襲相続人というワードが出てくるのは第一順位と第三順位のときです。つまり、代襲相続は第一順位と第三順位のときに想定されているもので、第二順位に代襲相続はありません。
これらのことから、まず第一順位の子全員が相続放棄をした場合、相続放棄で代襲相続は発生しないので、たとえ相続放棄した子に子がいたとしても、その子には代襲せず、第二順位の直系尊属に相続権が移ります(なお、子が二人いる場合で、その一方が相続放棄した場合は、もう一方の子がそのまま相続人となります)。
では次に、第二順位の直系尊属が相続放棄した場合はどうなるでしょうか?
二つ目のポイントで前記したとおり、第二順位の直系尊属に代襲相続はありませんので、たとえば、父母が相続放棄した場合に祖父母が存命ならば、第三順位の兄弟姉妹に相続権は移らず、次の相続人は祖父母となります。つまり、第二順位の直系尊属全員が相続放棄をしない限り、第三順位の兄弟姉妹に相続権が移るということはありません。
なお、この場合(父母・祖父母が存命)で、たとえば父のみが相続放棄をしたときは、第二順位の説明で前記したとおり「直系尊属の者の中に親等が異なる者がいる場合には親等の近い者が優先する」ので、もう一方の母だけが相続人となり、祖父母は相続人とはなりません。
もうひとつ混乱しやすいものとして数次相続と代襲相続があります。
数次相続とは「ある人が死亡したことにより相続が開始した(一次相続)が、その相続手続き中(遺産分割協議が調わないうち)に相続人が死亡してしまい、新たに相続が開始する(二次相続)」ことをいいます。
代襲相続と数次相続はよく似ていますが、代襲相続は相続人が被相続人の相続開始前に死亡しているのに対し、数次相続は被相続人の相続開始後に相続人が死亡した場合となります。
この違いで何が変わるかというと、遺産分割協議や相続手続きに加わる者が変わります。
代襲相続であれば、基本的に被相続人の相続人以外の者が遺産分割協議などに加わることはありませんが、数次相続の場合は死亡した相続人の相続人全員が加わることになりますので、たとえば相続人の配偶者(第一次相続の被相続人からみれば義理息子や義理娘)までが、第一次相続の遺産分割協議に相続人の相続人として加わることになります。
相続手続きに必要となる戸籍は、基本的に被相続人や被代襲者など亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍と、相続人の生存を確認するための現在戸籍が必要になります。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続人が亡くなっているときは、再代襲はありませんので、死亡の記載がある戸籍があれば足ります。詳しくは下記の「相続手続きに必要になる戸籍の範囲」をご覧ください。
この「出生から死亡までのすべての戸籍」を集める場合、通常は一通の戸籍だけでこの期間を網羅することはあまりなく、以下の三種類のすべてが含まれる可能性があります。
現在戸籍(げんざいこせき)とは、現に在籍している人がいて使用されている戸籍のことをいいます。なお、現在戸籍は省略して「げんこせき」「げんこ」などと呼ばれます。
戸籍は明治5年に戸籍法が施行されて以来、現在までに5回(戸籍をコンピュータ化していない市区町村では4回)の様式変更があり、そのたびに新様式への作り替え作業が行われました。
改製原戸籍(かいせいげんこせき)とは、この様式変更の際の「作り替え前のもの」をいいます。なお、改製原戸籍は上記の現在戸籍と音が紛らわしいため「はらこせき」「はらこ」などと区別して呼ばれます。
除籍とは、戸籍を編製している人(戸籍に在籍している人)が全員いなくなってしまった戸籍のことをいいます。現在戸籍から婚姻や死亡によって外れることも「除籍」という言葉を使いますが、相続の場面で「現在戸籍・改製原戸籍・除籍など」といわれるときは、この意味での除籍ではありません。
「戸籍を集めるのが大変な理由」でも説明しましたが、戸籍の請求先は、その人の本籍のおいてある(おいてあった)市役所・区役所・町村役場になります。
したがって、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を集めるにあたって、過去に婚姻や転籍等で本籍を変更している場合は、その本籍のおいてあった市役所・区役所・町村役場のすべてに請求して、その期間の戸籍を取得する必要があります(郵便による請求可)。
なお、古い戸籍の場合、本籍として記載されている市区町村がなくなっていたり、名前が変わっていたりすることが多々ありますので、戸籍を請求する前にどこの役所に請求すればよいのかインターネットなどで確認しておきましょう。
被相続人の配偶者(夫または妻)や直系の者(親・子・孫)は、「法律で定められた者」として戸籍を請求することができますが、兄弟姉妹はその範囲に含まれませんので、兄弟姉妹が戸籍を請求する場合は「正当な理由」を明示する必要があります。
したがって、兄弟姉妹が戸籍等を請求する場合は「相続が発生していること」と「その相続の相続人であること」を明示する必要があります。
なお、行政書士等には職務上請求という制度が認められており、業務の遂行上必要がある場合には戸籍や住民票などの証明書を収集することができますので、お困りの際はご依頼をご検討ください。
▸戸籍収集でお困りの際は「戸籍収集代行サービス」をご利用ください。